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福岡地方裁判所 昭和57年(ワ)404号 判決

原告

藤本淳一

被告

有限会社コスモオートセンター

主文

被告は原告に対し、金一九四万〇、八二三円及び内金一七四万〇、八二三円に対する昭和五五年九月一八日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、これを三分し、その一を原告の負担、その余を被告の負担とする。

この判決は、第一項に限り、原告が金五〇万円の担保を供するときは仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

原告訴訟代理人は、「被告は原告に対し、二八九万三、〇六〇円及び内金二六四万三、〇六〇円に対する昭和五五年九月一八日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決及び仮執行宣言を求め、

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

第二当事者の主張

一  請求原因(原告)

1  昭和五五年九月一七日午後一一時二〇分頃、福岡市西区小田部二丁目一三八番地路上で、原告が普通乗用自動車(福岡五八・さ・四〇五二)を運転して、道路左側に停車中、訴外甲野太郎運転の普通乗用自動車(高三三・さ・一八六九)が高速度で後方から原告運転車に衝突する交通事故が発生した。

2  原告は、右事故のため、頭部、腰部打撲、頸椎捻挫等の傷害を負い、安藤外科医院に昭和五五年九月一八日以降同年一〇月一一日まで入院し、同年一〇月一二日以降昭和五六年二月一〇日までの間(但し、実治療日数一三日)通院して、治療をうけ、昭和五六年二月一〇日(1)、頸部の全方向に運動痛、(2)、腰部前屈時に疼痛の後遺障害につき症状固定と診断された。

3  本件の加害車両である訴外甲野太郎運転の普通乗用自動車は、もと訴外松浦美子の所有であつたが、昭和五五年七月頃同訴外人から訴外中外車両販売株式会社に売却譲渡され、その後更に、同訴外会社から被告に販売委託されていたものであり、訴外甲野太郎は、被告から同年九月一五日頃右車両の貸与をうけているうち、本件事故を発生せしめたものである。

従つて、被告は、受託販売業者として、本件加害車両を自己のため運行の用に供していたものであり、自賠法三条に基づき、本件事故により原告が被つた損害を賠償すべき責任がある。

4  原告が本件事故のため被つた損害は次のとおりである。

(1) 治療費 七二万一、八二〇円

(2) 入院雑費(一日宛一、〇〇〇円、二四日) 二万四、〇〇〇円

(3) 入院付添費(一日宛三、〇〇〇円、七日) 二万一、〇〇〇円

(4) 休業損害 七六万〇、五〇〇円

原告は、本件事故当時訴外松尾建設工業に勤務し、事故前の昭和五五年七月一一日以降九月一七日までの六八日間のうち五五日間稼働し、日給六、五〇〇円、合計三五万七、五〇〇円の収入を得ていたところ、本件事故から前記症状固定までの一四五日間に亘る休業期間中、事故前と同様の割合で稼働したとして、その休業損害が七六万〇、五〇〇円である。

(5) 逸失利益 七一万五、七四〇円

原告は、前記後遺障害により一四パーセントの労働能力を少くとも三年間に亘り喪失したところ、前記のとおり、事故前月額平均約一五万六、〇〇〇円の収入を得ていたから、右期間の後遺障害による逸失利益の総額につき、ホフマン方式により中間利息を控除して、その現価を算出すると七一万五、七四〇円である。

(156,000×12×0.14×2.731=715.740)

(6) 慰藉料

(イ) 入通院期間中の慰藉料 五〇万〇、〇〇〇円

(ロ) 後遺障害の慰藉料 一三〇万〇、〇〇〇円

(7) 以上損害額合計 四〇四万三、〇六〇円

5  損害の填補 一四〇万〇、〇〇〇円

原告は、自賠責保険から一二〇万円を受領し、訴外井口良吾から二〇万円の支払をうけた。

6  弁護士費用 二五万〇、〇〇〇円

7  よつて、原告は被告に対し、二八九万三、〇六〇円及びそのうち弁護士費用を除く二六四万三、〇六〇円に対する事故の翌日である昭和五五年九月一八日以降完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  答弁(被告)

1  請求原因1、2は不知。

2  同3のうち、被告が本件加害車両の販売委託をうけていたことは認めるが、その余は争う。

本件加害車両は、暴力常習者である訴外甲野太郎が被告を脅迫し、被告が拒否したにも拘らず、強引に被告方から持ち出したものであるから、被告に責任はない。

3  同4ないし6は不知、同7は争う。

第三証拠〔略〕

理由

まず、本件交通事故及び被告の責任原因について判断するに、成立に争いがない甲一号証ないし三号証、同四号証の一ないし八、同五号証の一、二、同七号証ないし一二号証、同一八号証、原告及び被告代表者副田紫波各本人尋問の結果を総合すると、次のように認めることができる。

すなわち、昭和五五年九月一七日午後一一時二〇分頃、福岡市内を略々東西に通ずる国道二〇二号線上、同市西区小田部二丁目一三八番地先路上で、原告が普通乗用自動車(福岡五八・さ・四〇五二)を運転して、福重方面に向け西方に進行中、友人に電話するため道路左側に停車させ、サイドブレーキを引いた直後、後方を同方向に進行していた訴外甲野太郎運転の普通乗用自動車(シボレーカマロ、高三三・さ・一八六九)が、その左前部を原告運転車の右後部に激突させ、原告運転車を前方に転覆させる交通事故が発生したこと、右加害車両である訴外甲野太郎運転の普通乗用自動車は、もと訴外松浦ヨシコの所有であつたが、昭和五五年七月頃同訴外人から訴外中外車両販売株式会社に売却譲渡され、その後更に訴外有限会社東急自動車販売に転売されたのち、同訴外会社から販売委託のため被告に預けられていたこと、被告は、当時、外車専門の自動車販売業を営んでおり、顧客の自動車の修理等の求めには、特定の修理業者を紹介し、自ら右修理等をすることはなかつたこと、しかし、前記訴外甲野太郎は、本件事故の三日程前頃、以前被告から購入した乗用自動車(ボンテイアツク)の整備または修理を被告に依頼し、その際、被告代表者に右期間中の代車として本件加害自動車の貸与方を要求したこと、被告代表者副田紫波は、訴外甲野太郎の右要求に応じたくなかつたが、同訴外人が暴力常習者であつたため、正面から拒絶できず、一時席をはずしたりしたものの、結局、右訴外人が同代表者の身内からエンジンキーの提供をうけて本件加害自動車を持ち出したのち、これを右訴外人に貸与するのを黙認した形のままになつていたこと、以上の各事実を認めることができ、右認定に反する証拠は存しない。

右認定した事実によれば、被告は、受託販売業者として本件加害自動車を保管中、顧客である訴外甲野太郎の要求を拒み切れず、同訴外人に代車として右自動車を貸出しているうち、同訴外人が本件交通事故を惹起したものと認められるから、本件加害自動車の運行供用者として、自賠法三条により、本件事故のため原告が被つた損害を賠償すべき責任があると解せられる。

そこで、以下、原告の損害額について判断するに、前記甲二号証、成立に争いがない同六号証、同一三号証ないし一七号証、同二〇、二一号証、原告本人尋問の結果を総合すると、原告は、本件事故当時二二歳の男性で、もと訴外光砕石販売株式会社に勤務し、昭和五五年七月一一日以降松尾建設工業こと訴外松尾春男に雇用されていたところ、本件事故のため、頭部、腰部打撲、頸椎捻挫等の傷害をうけ、安藤外科医院に、同年九月一八日以降一〇月一一日まで入院、同月一二日以降昭和五六年二月一〇日まで通院(但し、実治療日数一三日)して、治療をうけ、右二月一〇日頃後記後遺症状固定の診断をうけたこと、そして、(1)、右安藤外科医院での治療費が主張の七二万一、八二〇円を下らず(甲一七号証)、(2)、同医院に入院二四日の入院雑費が一日一、〇〇〇円として、合計二万四、〇〇〇円、(3)、右入院期間中、九月一八日以降二四日まで七日間附添看護を要し(甲一三号証)、その附添看護料が一日三、〇〇〇円として、合計二万一、〇〇〇円を下らないこと、また、原告は、前記松尾建設工業で昭和五五年七月一一日から本件事故当日の九月一七日まで六八日間中五五日稼働し、日給六、五〇〇円、合計三五万七、五〇〇円の収入を得ていたが、本件事故による受傷のため右松尾建設工業を退職した形になり、現在、昭和五七年三月頃から週に一、二回程度魚市場でのアルバイトに従事しており、(4)、本件事故の翌日から前記症状固定までの一四六日間に亘る治療期間中、事故前と同様の割合で稼働したとして、その休業損害が主張の七六万〇、五〇〇円以上であること(357,500×146÷68)、更に、(5)、原告は、前記治療終了の時点で、頸部の運動痛、腰部前屈時の疼痛の神経症状が固定し、自賠責保険での後遺障害等級一四級一〇号であるところ、右後遺症による労働能力喪失割合を八パーセント、喪失期間を三年、原告の事故前の月収を一五万七、七二〇円(357,500×30÷÷68≒157,720)として、右期間の後遺障害による逸失利益総額につき、ホフマン方式により中間利息を控除し、その現価が四一万三、五〇三円(157,720×12×0.08×2,7310≒413,503)であること、以上のように認めることができ、右認定に反する証拠は存しない。

しかして、(6)、本件事故により原告が被つた苦痛に対する慰藉料の額については、本件事故の態様、原告の傷害及び後遺症の各内容、程度、その他本件の審理に表われた一切の事情を総合して、(イ)、入通院関係が四〇万円、(ロ)、後遺症関係が八〇万円とそれぞれ認めるべく、また、6、原告の負担する弁護士費用についても、本件訴訟の経緯、後記認容額等を考慮して、そのうち二〇万円を本件事故による通常損害として認めるのが相当である。

してみると、以上損害の合計は、(1)、治療費七二万一、八二〇円、(2)、入院雑費二万四、〇〇〇円、(3)、附添看護料二万一、〇〇〇円、(4)、休業損害七六万〇、五〇〇円、(5)、後遺障害による逸失利益四一万三、五〇〇円、(6)、慰藉料(イ)入通院関係四〇万円、(ロ)後遺障害関係八〇万円、6、弁護士費用二〇万円、右合計三三四万〇、八二三円であるところ、原告が右弁護士費用以外の損害につき自賠責保険から一二〇万円、訴外甲野太郎から二〇万円、合計一四〇万円の支払をうけたことは原告の自認するところであるから、差引き残損害は一九四万〇、八二三円、うち弁護士費用二〇万円となる。

よつて、原告の本訴請求は、一九四万〇、八二三円及びうち弁護士費用を除く一七四万〇、八二三円に対する事故後の昭和五五年九月一八日以降完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、右部分の請求を認容すべく、その余を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 田中貞和)

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